IFRインフォメーションペーパー

「つながる」ロボットは、製造業をどう変えるか

発表:2020年10月

発行:国際ロボット連盟(ドイツ・フランクフルト)

エグゼクティブサマリー

製造工程内でロボットを他の機械やプログラムとつなげると、製造業者にとって以下のようなメリットがある。

  1. ニーズの変化や多品種少量生産に素早く対応可能な、生産の柔軟性が高まる
  2. 繁忙期を乗り切り、新型コロナウイルス(COVID-19)のような社会全体を揺るがす危機に耐えるレジリエンス(立ち直る力)が高まる
  3. 性能を最適化することで、エネルギーとリソースを効率良く利用できるようになる
  4. 製造業従事者の生産性が向上する。ロボットは、製造オペレータの業務を支援する。機械や工程を最適化するために機械の性能データを分析し、より確度の高い情報を得ることで、エンジニア、技術者、生産管理者はより良い決断が下せるようになる。

IFRは、幅広い自動化戦略においてロボットをつなげる、5つの一般的なシナリオを示している。

  1. 自動生産:受注や製品設計といった製造の初期工程と、部品発注や機械のスケジューリングといった下流工程を連携させることで、製造業者は、新製品や新規の注文の製造が可能かどうかを様々なリソースから迅速に判断でき、製造体制をさらに最適化することができるようになる。
  2. 性能の最適化:ロボットや他の機械を中央コンピュータのサーバにつなぐことで、製造業者は、計画外のダウンタイムを避けながら、機械性能を最適化できるデータをリアルタイムで、もしくは過去に遡って取得し、蓄積することができるようになる。なお、ダウンタイムにより発生するコスト負担は、1時間当たり100万米ドル以上である。
  3. デジタルツイン:ロボットや他の製造機械を仮想空間に再現することで、製造業者は実際に製造ラインを動かす前に、製造オペレーションや、パラメータやプログラムの変更による影響をシミュレーションすることが可能になる。これにより、製造計画を見直し、ダウンタイムによるコストの発生を避けることができるようになる。
  4. サービスとしてのロボット(RaaS):使用量に合わせた従量制の課金モデルでロボットを導入することは、初期投資や想定外の保守費用が抑えられ、運用コストが前もって予測可能となることから、特に中小の製造業者にとってメリットが大きいと考えられる。
  5. 感知と反応:センサ及びビジョンシステムによって、ロボットはリアルタイムで外部環境に反応できるようになる。これにより、例えばバラ積みされた部品のピック&プレース作業など、ロボットが実行可能な作業の幅が広がり、ロボットのモビリティも向上する。移動ロボットは、各工程が分かれ、複数のセルで並行して製造する体制において、柔軟性を実現する鍵である。

今後の開発における四大重点分野

  1. ハードウェア:ビジョンシステムやセンサ、グリッパの技術の進歩により、ロボットは、さらに幅広い作業において人間のサポートができるようになる。
  2. ソフトウェア:直観的に操作できるプログラミングインタフェースや、革新的なロボットアプリケーション、RaaSというビジネスモデルの登場により、ロボット導入のハードルはより一層下がると考えられる。機械学習や予測アルゴリズムがますます高度化し、クラウドベースの分析ソリューションが増えることで、意思決定の精度が高まり、製造計画、機械性能が改善する。
  3. 通信フレームワーク:製造工程における自動化戦略全体の最大のハードルは、製造機械とソフトウェアアプリケーションを統合する際にかかるコストである。このコストについては、プログラミングインタフェースの直観的操作性が一層高まり、通信プロトコルとセマンティックフレームワークによってシステム間のシームレスな通信がさらに可能になれば、大幅に削減されることが期待できる。
  4. 柔軟な生産体制:上記3分野における技術の進歩は、各工程が分かれ、複数のセルで並行して製造する体制において、柔軟な生産戦略を後押しするものである。つまり、多くの製品に共通する部品を一つのセルで製造し、他のセルでは個別注文の部品を製造することができるようになる。

製造業者及び政策立案者への影響
製造業において自動化は、世界を舞台に競争力を高める鍵となる。自動化技術のメリットを最大限享受するために、製造業者及び政策立案者は、以下の3点について重点的に取り組む必要がある。

  1. スキル計画とスキル開発:製造業者は、新しいデジタルスキルと、旧来のシステムにおける専門知識とのバランスを取るために、現役の熟練労働者のスキル向上を図る道を入念に計画する必要がある。カリキュラムがスキル要件に対応したものとなるように、教育機関と緊密に連携することが不可欠である。政策立案者は、スキル開発に必要な教育基盤を整備し、労働者がそれを利用できるようにしなければならない。
  2. 製造業におけるキャリア形成の促進:製造業者、教育機関、そして政府は、次世代の製造業従事者に向けて、技術開発の最前線で活躍する製造業で働くメリットを発信していく必要がある。
  3. 自動化技術の導入を促進する政策の立案:政策立案者は、自動化技術を導入する企業が、インセンティブや支援を受けられるようにする必要がある。特に中小企業は、自動化戦略の策定・実行にあたり、行政による支援が必要である。

国際ロボット連盟(IFR)が作成したインフォメーションペーパー (英文)の、エグゼクティブサマリーの日本語参考訳を掲載しています。
なお、原文と日本語参考訳との間に齟齬がある場合は、原文の内容が優先されます。
※原文(How Connected Robots are Transforming Manufacturing)はこちらからダウンロードいただけます(要登録)。